建物のおまつり(建築儀礼)
建物の神さま
 家とは単なる建築物ではありません。古くから、日本人は、お正月には歳神さま、お盆には祖先の御霊を家にお迎えする伝統を大切にしてきました。家とは神さまをお迎えする特別な場所でもあるのです。また、家を建てるときには、工事の無事や安全を神さまに祈る神事が行われます。それは長い時間を経て現在に伝えられ、ビルや工場などを建てるときも同じように行われます。「地鎮祭」、「上棟祭」、「竣工祭」など、私たちは節目ごとの祝いを神さまに感謝し、喜びをともにしてきたのです。
氏神(うじがみ)さまと産土神(うぶすながみ)さま
 もともと氏神さまは血縁関係のある一族の神さま、産土神さまは生まれた土地やその地域の人々を守ってくださる神さまとされていました。今日では、そうした区別をあまりせす、私たちが住んでいる地域や人々を守ってくださる神さまを氏神さまと呼んでいます。
地鎮祭
 「とこしずめのまつり」や「じまつり」ともいわれ、もっとも一般的で重要な建築のお祭りです。工事をはじめる前にその土地の神さまにご挨拶し、土地を祓い清め、これから行われる工事の安全と変わらぬ守護を願うお祭りです。建主のほか工事関係者も参列し、敷地のなかに祭壇を設け、お供物をし、その土地の神さまをお迎えします。最近では式典としての「起工式」のみ行われることもありますが、神さまをお迎えして行われる「お祭り」であることに意義があるのです。

大地主神(おおとこぬしのかみ)さま
 大地主神さまとは、その土地をお守りくださる神さまです。私たちは土地や建物の売買を行いますが、その土地は大地主神さまにお守りいただいているのです。だからこそ、大切にしたいものですね。
上棟祭(じょうとうさい)
  「たてまえ」「むねあげ」ともいわれ、柱がたち、棟木を上げる際に行われるお祭りです。地鎮祭では土地の神さまをお迎えしましたが、上棟祭では建物の神さまや匠の神さまをお迎えします。それらの神さまと氏神さまを記した棟札を中央の柱に貼り、棟木には上棟幣(じょうとうへい)を立て、魔よけとして弓矢などを飾り、曳綱(ひきつな)の儀(棟木を棟に曳き上げる)、槌打(うちうち)の儀(棟木を棟に打ち固める)、散餅銭(さんぺいせん)の儀(お餅や小銭などを描く)を行うことが多いようです。ご近所の方々に、小銭やお餅などをふるまい、直会(なおらい)では、建主が工事関係者の日頃の労をねぎらいます。上棟祭は、建主と工事関係者、ご近所の方々との交流の場でもあるのです。
竣工祭
 建物が完成し、入居するにあたり行うお祭りです。新築した建物を祓い清め、神さまに無事完成したことを奉告し、建物が末永く丈夫であること、そこに住む人々が繁栄することをお祈りします。最近は、地鎮祭のみ行い竣工祭を省くことが多くなってきたようですが、地鎮祭から工事を見守っていただいた氏神さまに、無事の完成を奉告するのも大切なことです。
 また、工事にあたっては、近隣の人々もあたたかく見守ってくださったことでしょう。建物のお披露目とともに、神さまや工事関係者、ご近所の方々に感謝の気持ちをあらわし、気持ちよく新生活をはじめたいものです。
匠の神さま
 上棟票でお迎えする、屋船久久遅命と、屋船豊宇気姫命は建物の神さま、手置帆負命と彦狭知命は工匠の神さまです。「八百万の神の国」と言われる日本には、色々な神さまがいらっしゃいます。どんな神さまがいらっしゃるのか調べたら楽しいかもしれませんね。
住まいに関するお祭り
【建物の解体清祓・その他のお祭り】
一、「解体清祓」ってとんなお祭りなの?
 建築に関するお祭りで意外に忘れがちなお祭りが、取り壊しのお祭りです。
 古くなった建物を壊すにあたって行われるお祭りが「解体清祓」や「取り壊し始祭」と呼ばれるお祭りです。
 まず建物を祓い清め、家屋の守り神である屋船久久遅神と屋船豊受姫神に対して、これまで長年にわたり、何事もなく無事に過ごさせていただいた感謝の気持ちを表すとともに、取り壊しの事情を奉告し、また、お許しをいただき、解体工事がすみやかに無事終了するように祈願するお祭りです。
二、増築・改築でもお祭りはするの?
 建築に関するお祭り全般にいえることですが、日常生活に密接に関わっている家屋や屋敷地内に手を加える造作などに際しては、それぞれをつかさどる神さまに対して、工事にいたる事情を奉告し、工事の安全はもとより平安な生活を送るための祈りを捧げるおまつりが必要となります。
 また、建物・敷地の構造物が変わるということは、その家の家相にも影響を及ぼしますので、古来より注意を要するものとされてきました。清々しい新生活を送るためにもきちんとしたお祓いを受けなければなりません。
三、井戸を埋める時はどうするの?
 今日では上水道の普及と地下水の衛生面からあまり使われることがなくなった井戸も、少し前までは大事に扱われていました。井戸を埋めるのにあたってはもちろんのこと、敷地内に古井戸の跡がある場合にも、工事を始めるに際しては必ず井戸埋めのお祓いを行います。長い間、水の恵みを与えて下さった水の神さま「弥都波能売神(みつはのめのかみ)・御井神(みいのかみ)」に井戸を埋める事を奉告すると共に、御神徳に感謝し、今後も災いがないよう祈願をします。
 便所の取り壊しや埋め戻しなどにおいても、同様のことがいえます。
四、「門・塀」「池」なとのお祭りがあるの?
 門や塀は敷地を外界と隔てる役割をもっております。神社でいえば鳥居や神門にあたります。取り壊しや建て始めに際しては、その事情を奉告し工事の安全などをご祈願します。
 また、邸内の池の作事や埋め戻しに対しても、水の神さまにその事情の奉告をおこない、工事の安全と家庭生活の平安をお祈りします。築山や庭石などの造作についても同様のことがいえます。
五、庭の木を切るときにお祓いは必要なの?
 一般に樹木や草木には、精霊が宿るとされております。 樹木や岩石は、神の依り代として古くから広く信仰されています。国土の大半を森林が占めている日本は、樹木と密接なつながりを保ちながら豊かな文化を育んできました。
 「木」の語源は「生」で、生成繁茂する様子によるとの説もあるように、樹木は生命力を象徴するものとして大切にされてきたのです。樹木を神聖視する例は古くから世界中にありますが、それを現代にまで引き継いでいるのは日本だけかもしれません。自然環境の保護が叫ばれる今、祖先から守り伝えてきたこの誇るべき財産を、未来に確実に伝えていきたいものです。 神社の森はもちろんのこと、屋敷内の大木などをやむを得ず伐採するときには、樹木に宿る木霊に感謝し、鎮まっていただくために、神職によるお祓いを行います。
鎮守の森を守り、育てよう!
 森とは、たんに木が集まっただけではなく、幾種類もの樹種、野鳥や昆虫、地中の小動物群、微生物などいろいろな生き物が生きている共同体社会です。
 日本列島では約二千年前に稲作が始まりました。森を切り開き耕地整理をし、道路や集落を形成してきました。しかし、私たちの祖先はその際にも、かならずふるさとの木による森を残しました。それが鎮守の森なのです。
 「鎮守」とは、その土地の地霊をなごめ、その地を守護する神さまです。その言葉通り、鎮守の森は地震、台風などの自然災害から、私たちを守ってきました。さらに神社を守ることによって文化を伝えてきました。
 鎮守の森は強いものです。荒れ地には一気にはびこるセイタカアワダチソウなどの帰化植物も鎮守の森には侵入できません。かつては日本中の樹木を食い荒らすと恐れられていたアメリカシロヒトリも、鎮守の森には歯が立ちません。
 またスギやヒノキなどを人工的に植えた森では、常時、人間が手を入れてやらねばなりませんが、その土地本来の樹木でできた鎮守の森は、そんな必要はありません。鎮守の森は千年の森なのです。
 鎮守の森を育み、守り伝えていきましょう!
【家相と方位】
 家相とは、土地の形状や家屋の間取り、方位などがその家に住む人に影響を与えるという考えにより吉凶禍福を判断する基進となる考え方のことです。これは古代中国の陰陽五行説に由来し、経験的な知識や民間信仰なども交えたものでした。
 また、古くから都市選定の際に「四神相応」という地相が理想的な場所として重視されたことも、この考えに基づきます。四神とは東の方角を司り、水の流れを意味する 「青龍」、南を司り窪地を意味する「朱雀」、西を司り大道を意味する「白虎」、北を司り丘陵を意味する「玄武」の聖獣をいいます。
 このような地形が四神の相応じた吉相の土地とされました。 平安京(京都)もこうした条件により選ばれたものですが、これには清涼な土地であることや、排水・交通など都市生活に不可欠な諸条件を充たす経験的な知識が背景にあるともいわれています。
 そのほか、北東の方角を「鬼門」として忌み嫌います。鬼門とは病疫が出入りし、災いをもたらす方角であるとされ、都市ではその方角に鬼門除けの社寺を祀りました。 以上のことは、家屋についても同様で、特に建築に際しては鬼門の方角に玄関や便所、風呂・台所をつくることは避けます。
 このほか、家屋の間取りなどにも詳細な吉凶判断の基準があり、家相は現在でも民間信仰として根強い影響があります。 しかし、土地事情により、全ての条件を充たすのはたいへん難しく、致し方のない場合はそれぞれにあった対応を図らなければなりません。 いずれにしても家屋を清浄な環境に保ち、家族が円満に暮らすことが何よりも大切なことといえます。
 家相の基本は、人が住む家に、いかに自然の恵みを取り入れるかという点にあります。まず家相では家の中心からみた「方位」によって間取りの吉凶を判断しますが、その部屋を誰が使うのかということも問題にしますので、家という器のみで家相は論じることはできませんし、家相さえよければそれで良し、というわけでもありません。浄く正しい心で神さまを敬い、ご先祖さまを尊ぶ心で日々過ごすことが、健康で平安な家庭生活を築く上で大切です。そのために家屋の設計に際しては神職に相談し、きちんとした形でお祓いを受け、神棚をまつるという心構えが必要です。
土  用
 工事を始めるにあたっては、昔から土用の期間中は避けるようにいわれています。夏の土用はよく知られていますが、この土用というのは夏ばかりではなく、年に四回あります。
 立春・立秋・立冬のそれぞれ前十八日間を土用といいます。「用」というのは「働き」のことで、土気(土の気)が物を変化させる意味から名づけられています。この期間中は、土を動かしたり、土木工事に着手すること、璧を破ることは大凶で
す。但し、土用期間中でも行って良い日があります。春は「巳・午・酉の日」、夏は「
卯・辰・申の日」、秋は「未・酉・亥の日」、冬は「卯・巳・寅の日」です。この日にお祭りをして工事に着手すれば良いとされています。
兵庫県神社庁
〒650-0015
神戸市中央区多聞通3-1-1
TEL 078-341-1145
FAX 078-371-6015
Copyright (C) 2008 兵庫県神社庁 All Right Reserved, 記事・写真の無断転載を禁じます。