多くの神社には、拝殿の中央、ちょうど賽銭箱の真上あたりに、鋼や真鍮(しんちゅう)製の大きな鈴が吊られており、この鈴に添えて麻縄や、紅白・五色の布などを垂らして、参拝者はこれを振り動かして鈴を鳴らし、お参りをします。 神社によっては神仏習合の影響により、鈴の代わりに鰐口(わにぐち)が設けられている場合もあります。 社頭に設けられた鈴は、その清々しい音色で参拝者を敬虔な気持ちにするとともに参拝者を祓い清め、神霊の発動を願うものと考えられています。 また、巫女が神楽舞を舞う際に用いる神楽鈴も、社頭の鈴と同様の意味によるものです。古くは巫女が神楽を舞うことにより神憑りして人々に神の意志を伝えており、このために必要なものとされていました。 今日では巫女による神楽舞が優雅な形に定められ、神憑りというより神慮を慰めるものとしての意味合いが強くなり、神楽舞の後に参拝者に対しておこなわれる鈴振り行事は、祓い清めの意味を有するものということができます。このほか、御守などの授与品に鈴が用いられるのは、魔除けや厄除け開運のためともいわれています。 (1)『古語拾遺』(こごしゅうい)には、天の岩屋(あまのいわや)にお隠れにな られた天照大御神の心をひくために、天細女命(あめのうずめのみこと)が鈴を付けた矛を持って舞ったことが記され、宮中では天皇陛下が天照大御神を御親拝(ごしんばい)なされる際に、女性で祭祀を司る内掌典(ないしょうてん)が、御鈴を鳴らして奉仕することがあるように、神事における鈴振りは今日まで重要な意味を持ってきました。 江戸時代の国学者である(2)本居宣長(もとおりのりなが)は自らの号を「鈴屋(すずのや)」と称して、「鈴の屋とは、三十六の小鈴を、赤き緒にぬきたれて、柱などにかけおきて、物むつかしきおりおり引なして、それが音をきけば、ここちもすがすがしくおもほゆ、その鈴の歌はとこのべにわがかけて、いにしへしぬぶ鈴が音のさやさや」とその命名の意味を述べていますが、その美しき音色は神人共に和ませるものということができます。 (1)古語拾遺 大同二年(八〇七)、忌部(斎部)氏に伝えられてきた古伝承を斎部広成(いんべのひろなり)の撰述により纏めた書物。『古事記』や『日本書紀』には記されていない神祀祭祀に関わる古伝承も載せられている。 (2)本居宣長 五八頁注(2)参照